物だのに、今津田の耳に入った音は、手に取るように判切《はっきり》しているので、彼はすぐその確的《たしか》さの度合から押して、室の距離を定める事ができた。
下から見上げた階子段の上は、普通料理屋の建築などで、人のしばしば目撃するところと何の異《こと》なるところもなかった。そこには広い板の間があった。目の届かない幅は問題外として、突き当りを遮《さえ》ぎる壁を目標《めやす》に置いて、大凡《おおよそ》の見当をつけると、畳一枚を竪《たて》に敷くだけの長さは充分あるらしく見えた。この板の間から、廊下が三方へ分れているか、あるいは二方に折れ曲っているか、そこは階段を上《のぼ》らない津田の想像で判断するよりほかに途《みち》はないとして、今聴えた障子の音の出所《でどころ》は、一番階段に近い室、すなわち下《し》たから見える壁のすぐ後《うしろ》に違なかった。
ひっそりした中に、突然この音を聞いた津田は、始めて階上にも客のいる事を悟った。というより、彼はようやく人間の存在に気がついた。今までまるで方角違いの刺戟《しげき》に気を奪《と》られていた彼は驚ろいた。もちろんその驚きは微弱なものであった。けれども性
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