省《はぶ》いた。そうして今度は清子とその軽便とを聯結《れんけつ》して「女一人でさえ楽々往来ができる所だのに」と思いながら、面白半分にする興味本位の談話には、それぎり耳を貸さなかった。
百六十九
汽車が目的の停車場《ステーション》に着く少し前から、三人によって気遣《きづか》われた天候がしだいに穏かになり始めた時、津田は雨の収《おさ》まり際《ぎわ》の空を眺めて、そこに忙がしそうな雲の影を認めた。その雲は汽車の走る方角と反対の側《がわ》に向って、ずんずん飛んで行った。そうして後《あと》から後からと、あたかも前に行くものを追《おっ》かけるように、隙間《すきま》なく詰《つ》め寄せた。そのうち動く空の中に、やや明るい所ができてきた。ほかの部分より比較的薄く見える箇所がしだいに多くなった。就中《なかんずく》一角はもう少しすると風に吹き破られて、破れた穴から青い輝きを洩らしそうな気配《けはい》を示した。
思ったより自分に好意をもってくれた天候の前に感謝して、汽車を下りた津田は、そこからすぐ乗り換えた電車の中で、また先刻《さっき》会った二人伴《ふたりづれ》の男を見出した。はたして
前へ
次へ
全746ページ中655ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング