ろきと喜びがあった。一種の飢渇《きかつ》があった。掴《つか》みかかろうとする慾望の力があった。そうしてその驚ろきも喜びも、飢渇も慾望も、一々|真《しん》その物の発現であった。作りもの、拵《こしら》え事、馴《な》れ合《あ》いの狂言とは、どうしても受け取れなかった。少くとも津田にはそうとしか思えなかった。
その上津田のこの判断を確めるに足る事実が後《あと》から継《つ》いで起った。原はそれほど欲しそうな紙幣《さつ》へ手を出さなかった。と云って断然小林の親切を斥《しり》ぞける勇気も示さなかった。出したそうな手を遠慮して出さずにいる苦痛の色が、ありありと彼の顔つきで読まれた。もしこの蒼白《あおじろ》い青年が、ついに紙幣《さつ》の方へ手を出さないとすると、小林の拵《こしら》えたせっかくの狂言も半分はぶち壊《こわ》しになる訳であった。もしまた小林がいったん隠袋《ポケット》から出した紙幣を、当初の宣告通り、幾分でも原の手へ渡さずに、再びもとへ収めたなら、結果は一層の喜劇に変化する訳であった。どっちにしても自分の体面を繕《つくろ》うのには便宜《べんぎ》な方向へ発展して行きそうなので、そこに一縷《いちる
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