え。要るだけ取りたまえ」
彼はこう云って原の方を見た。
百六十六
小林の所作《しょさ》は津田にとって全くの意外であった。突然毒気を抜かれたところに十分以上の皮肉を味わわせられた彼の心は、相手に向って躍《おど》った。憎悪《ぞうお》の電流とでも云わなければ形容のできないものが、とっさの間に彼の身体《からだ》を通過した。
同時に聡明な彼の頭に一種の疑《うたがい》が閃《ひら》めいた。
「此奴《こいつ》ら二人は共謀《ぐる》になって先刻《さっき》からおれを馬鹿にしているんじゃないかしら」
こう思うのと、大通りの角で立談《たちばなし》をしていた二人の姿と、ここへ来てからの小林の挙動と、途中から入って来た原の様子と、その後《ご》三人の間に起った談話の遣取《やりとり》とが、どれが原因ともどれが結果とも分らないような迅速の度合で、津田の頭の中を仕懸花火《しかけはなび》のようにくるくると廻転した。彼は白い食卓布《テーブルクロース》の上に、行儀よく順次に並べられた新らしい三枚の十円紙幣を見て、思わず腹の中で叫んだ。
「これがこの摺《す》れッ枯《か》らしの拵《こしら》え上げた狂言の落
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