ねつけるとすると、あいつは怒るよ。ただ怒るだけならいいが、きっと何かするよ。復讐《かたきうち》をやるにきまってるよ。ところがこっちには世間体《せけんてい》があり、向うにゃそんなものがまるでないんだから、いざとなると敵《かな》いっこないんだ。解ったかね」
 ここまで来ると最初の人道主義はもうだいぶ崩《くず》れてしまう。しかしそれにしても、ここで切り上げさえすれば、お延は黙って点頭《うなず》くよりほかに仕方がないのである。ところが彼はまだ先へ出るのである。
「それもあいつが主義としてただ上流社会を攻撃したり、または一般の金持を悪口《あっこう》するだけならいいがね。あいつのは、そうじゃないんだ、もっと実際的なんだ。まず最初に自分の手の届く所からだんだんに食い込んで行こうというんだ。だから一番災難なのはこのおれだよ。どう考えてもここでおれ相当の親切を見せて、あいつの感情を美くして、そうして一日も早く朝鮮へ立って貰《もら》うのが上策なんだ。でないといつどんな目に逢《あ》うか解ったもんじゃない」
 こうなるとお延はどうしてもまた云いたくなるのである。
「いくら小林が乱暴だって、あなたの方にも何かな
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