まで云った。
「だから訳をおっしゃいよ。こういう訳があるから、こうしなければ義理が悪いんだという事情さえ明暸《めいりょう》になれば、あの小切手をみんな上げても構わないんだから」
津田にはここが何より大事な関所なので、どうしてもお延を通させる訳に行かなかった。彼は小林を弁護する代りに、二人の過去にある旧《ふる》い交際と、その交際から出る懐《なつ》かしい記憶とを挙げた。懐かしいという字を使って非難された時には、仕方なしに、昔の小林と今の小林の相違にまで、説明の手を拡《ひろ》げた。それでも腑《ふ》に落ちないお延の顔を見た時には、急に談話の調子を高尚にして、人道《じんどう》まで云々した。しかし彼の口にする人道はついに一個の功利説《こうりせつ》に帰着するので、彼は吾《われ》知らず自分の拵《こしら》えた陥穽《かんせい》に向って進んでいながら気がつかず、危うくお延から足を取られて、突き落されそうになる場合も出て来た。それを代表的な言葉でごく簡単に例で現わすと下《しも》のようになった。
「とにかく困ってるんだからね、内地にいたたまれずに、朝鮮まで落ちて行こうてんだから、少しは同情してやってもよかろう
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