の時間には、もう顔を出さなかった。
「今日は当直だから晩には来られないんだそうです」
 彼女はこう云って、不断のような忙がしい様子をどこにも見せずに、ゆっくり津田の膳《ぜん》の前に坐《すわ》っていた。
 退屈凌《たいくつしの》ぎに好い相手のできた気になった津田の舌《した》には締りがなかった。彼は面白半分いろいろな事を訊《き》いた。
「君の国はどこかね」
「栃木県です」
「なるほどそう云われて見ると、そうかな」
「名前は何と云ったっけね」
「名前は知りません」
 看護婦はなかなか名前を云わなかった。津田はそこに発見された抵抗が愉快なので、わざわざ何遍も同じ事を繰り返して訊《き》いた。
「じゃこれから君の事を栃木県、栃木県って呼ぶよ。いいかね」
「ええよござんす」
 彼女の名前の頭文字はつ[#「つ」に白丸傍点]であった。
「露《つゆ》か」
「いいえ」
「なるほど露《つゆ》じゃあるまいな。じゃ土《つち》か」
「いいえ」
「待ちたまえよ、露《つゆ》でもなし、土《つち》でもないとすると。――ははあ、解《わか》った。つや[#「つや」に白丸傍点]だろう。でなければ、常《つね》か」
 津田はいくらでも
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