の文句は固《もと》より簡単であった。彼女は封を切る手数とほとんど同じ時間で、それを読み下す事ができた。けれども読んだ後の彼女は、もう読む前の彼女ではなかった。わずか三行ばかりの言葉は一冊の書物より強く彼女を動かした。一度に外から持って帰った気分に火を点《つ》けたその書翰《しょかん》の前に彼女の心は躍《おど》った。
「今日病院へ来ていけないという意味はどこにあるだろう」
それでなくっても、もう一遍出直すはずであった彼女は、時間に関《かま》う余裕さえなかった。彼女は台所から膳《ぜん》を運んで来たお時を驚ろかして、すぐ立ち上がった。
「御飯は帰ってからにするよ」
彼女は今脱いだばかりのコートをまた羽織って、門を出た。しかし電車通りまで歩いて来た時、彼女の足は、また小路《こうじ》の角でとまった。彼女はなぜだか病院へ行くに堪《た》えないような気がした。この様子では行ったところで、役に立たないという思慮が不意に彼女に働らきかけた。
「夫の性質では、とても卒直にこの手紙の意味さえ説明してはくれまい」
彼女は心細くなって、自分の前を右へ行ったり左へ行ったりする電車を眺めていた。その電車を右へ利用
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