《もら》って、勤向《つとめむき》の都合をつけて貰って、病後の身体を心持の好い温泉場で静養するのは、誰にとっても望ましい事に違なかった。ことに自己の快楽を人間の主題にして生活しようとする津田には滅多《めった》にない誂《あつら》え向《む》きの機会であった。彼に云わせると、見す見すそれを取《と》り外《はず》すのは愚《ぐ》の極であった。しかしこの場合に附帯している一種の条件はけっして尋常のものではなかった。彼は顧慮した。
彼を引きとめる心理作用の性質は一目暸然《いちもくりょうぜん》であった。けれども彼はその働きの顕著な力に気がついているだけで、その意味を返照《へんしょう》する遑《いとま》がなかった。この点においても夫人の方が、彼自身よりもかえってしっかりした心理の観察者であった。二つ返事で断行を誓うと思った津田のどこか渋っている様子を見た夫人はこう云った。
「あなたは内心行きたがってるくせに、もじもじしていらっしゃるのね。それが私《わたし》に云わせると、男らしくないあなたの一番悪いところなんですよ」
男らしくないと評されても大した苦痛を感じない津田は答えた。
「そうかも知れませんけれども、
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