た。勢い夫人は一歩前へ進んで来る事になった。
「あなたは延子さんを可愛がっていらっしゃるでしょう」
ここでも津田の備えは手薄であった。彼は冗談半分《じょうだんはんぶん》に夫人をあしらう事なら幾通《いくとおり》でもできた。しかし真面目《まじめ》に改まった、責任のある答を、夫人の気に入るような形で与えようとすると、その答はけっしてそうすらすら出て来なかった。彼にとって最も都合の好い事で、また最も都合の悪い事は、どっちにでも自由に答えられる彼の心の状態であった。というのは、事実彼はお延を愛してもいたし、またそんなに愛してもいなかったからである。
夫人はいよいよ真剣らしく構えた。そうして三度目の質問をのっぴきさせぬ調子で掛けた。
「私《あたし》とあなただけの間の秘密にしておくから正直に云っとしまいなさい。私の聴《き》きたいのは何でもないんです。ただあなたの思った通りのところを一口伺えばそれでいいんです」
見当《けんとう》の立たない津田はいよいよ迷《まご》ついた。夫人は云った。
「あなたもずいぶんじれったい方《かた》ね。云える事は男らしく、さっさと云っちまったらいいでしょう。そんなむずかし
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