うと、彼は「世間」の取沙汰通《とりざたどお》り、お延を大事にするのではなかった。誤解交《ごかいまじ》りのこの評判が、どこからどうして起ったかを、他《ひと》に説明しようとすれば、ずいぶん複雑な手数《てすう》がかかるにしても、彼の頭の中にはちゃんとした明晰《めいせき》な観念があって、それを一々|掌《たなごころ》に指《さ》す事のできるほどに、事実の縞柄《しまがら》は解っていた。
第一の責任者はお延その人であった。自分がどのくらい津田から可愛がられ、また津田をどのくらい自由にしているかを、最も曲折の多い角度で、あらゆる方面に反射させる手際をいたるところに発揮して憚《はば》からないものは彼女に違《ちがい》なかった。第二の責任者はお秀であった。すでに一種の誇張がある彼女の眼を、一種の嫉妬《しっと》が手伝って染めた。その嫉妬がどこから出て来るのか津田は知らなかった。結婚後始めて小姑《こじゅうと》という意味を悟った彼は、せっかく悟った意味を、解釈のできないために持て余した。第三の責任者は藤井の叔父夫婦であった。ここには誇張も嫉妬《しっと》もない代りに、浮華《ふか》に対する嫌悪《けんお》があまり強く働
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