かったなら、彼女はお秀の前に頭を下げて、もう救《すくい》を求めていたかも知れなかった。お秀は云った。
「変ね。津田の事なんか、吉川の奥さんがお話しになる訳がないのにね。どうしたんでしょう」
「でも本当よ、秀子さん」
 お秀は始めて声を出して笑った。
「そりゃ本当でしょうよ。誰も嘘だと思うものなんかありゃしないわ。だけどどんな事なの、いったい」
「津田の事よ」
「だから兄の何よ」
「そりゃ云えないわ。あなたの方から云って下さらなくっちゃ」
「ずいぶん無理な御注文ね。云えったって、見当《けんとう》がつかないんですもの」
 お秀はどこからでもいらっしゃいという落ちつきを見せた。お延の腋《わき》の下から膏汗《あぶらあせ》が流れた。彼女は突然飛びかかった。
「秀子さん、あなたは基督教信者《キリストきょうしんじゃ》じゃありませんか」
 お秀は驚ろいた様子を現わした。
「いいえ」
「でなければ、昨日《きのう》のような事をおっしゃる訳がないと思いますわ」
 昨日と今日の二人は、まるで地位を易《か》えたような形勢に陥《おちい》った。お秀はどこまでも優者の余裕を示した。
「そう。じゃそれでもいいわ。延子さ
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