なかった。彼は三分の不安と七分の信力をもって、彼女の来訪を待ち受けた。
 残る一つの閃《ひら》めきが、お延に対する態度を、もう一遍臨時に変更する便宜《べんぎ》を彼に教えた。先刻《さっき》までの彼は退屈のあまり彼女の姿を刻々に待ち設《もう》けていた。しかし今の彼には別途の緊張があった。彼は全然異なった方面の刺戟《しげき》を予想した。お延はもう不用であった。というよりも、来られてはかえって迷惑であった。その上彼はただ二人、夫人と差向いで話してみたい特殊な問題も控えていた。彼はお延と夫人がここでいっしょに落ち合う事を、是非共防がなければならないと思い定めた。
 附帯条件として、小林を早く追払《おっぱら》う手段も必要になって来た。しかるにその小林は今にも吉川夫人が見えるような事を云いながら、自分の帰る気色《けしき》をどこにも現わさなかった。彼は他《ひと》の邪魔になる自分を苦《く》にする男ではなかった。時と場合によると、それと知って、わざわざ邪魔までしかねない人間であった。しかもそこまで行って、実際気がつかずに迷惑がらせるのか、または心得があって故意に困らせるのか、その判断を確《しか》と他《ひと
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