事だもんだから、つい忘れちまった。しかし彼らは友達にしても、ただの友達じゃあるまい」
「何を云ってるんだ」
 津田はついその後《あと》へ馬鹿野郎と付け足したかった。
「いや、よほどの親友なんだろうという意味だ。そんなに怒らなくってもよかろう」
 吉川と岡本とは、小林の想像する通りの間柄に違なかった。単なる事実はただそれだけであった。しかしその裏に、津田とお延を貼《は》りつけて、裏表の意味を同時に眺める事は自由にできた。
「君は仕合せな男だな」と小林が云った。「お延さんさえ大事にしていれば間違はないんだから」
「だから大事にしているよ。君の注意がなくったって、そのくらいの事は心得ているんだ」
「そうか」
 小林はまた「そうか」という言葉を使った。この真面目《まじめ》くさった「そうか」が重なるたびに、津田は彼から脅《おび》やかされるような気がした。
「しかし君は僕などと違って聡明《そうめい》だからいい。他《ひと》はみんな君がお延さんに降参し切ってるように思ってるぜ」
「他《ひと》とは誰の事だい」
「先生でも奥さんでもさ」
 藤井の叔父や叔母から、そう思われている事は、津田にもほぼ見当《けん
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