彼は、自身に今まで行って来た人世観をすら、組織正しい形式の下に、わが眼の前に並べて見る事ができなかったのである。
百十六
津田は纏《まと》まらない事をそれからそれへと考えた。そのうちいつか午過《ひるす》ぎになってしまった。彼の頭は疲れていた。もう一つ事を長く思い続ける勇気がなくなった。しかし秋とは云いながら、独《ひと》り寝ているには日があまりに長過ぎた。彼は退屈を感じ出した。そうしてまたお延の方に想《おも》いを馳《は》せた。彼女の姿を今日も自分の眼の前に予期していた彼は横着《おうちゃく》であった。今まで彼女の手前|憚《はば》からなければならないような事ばかりを、さんざん考え抜いたあげく、それが厭《いや》になると、すぐお延はもう来そうなものだと思って平気でいた。自然頭の中に湧《わ》いて出るものに対して、責任はもてないという弁解さえその時の彼にはなかった。彼の見たお延に不可解な点がある代りに、自分もお延の知らない事実を、胸の中《うち》に納めているのだぐらいの料簡《りょうけん》は、遠くの方で働らいていたかも知れないが、それさえ、いざとならなければ判然《はっきり》した言葉
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