ぎ》をかけて、是非その看護婦を殴《なぐ》らせろと、医局へ逼《せま》った人があったというその話は、津田から見るといかにも滑稽《こっけい》であった。こういう性質《たち》の人と正反対に生みつけられた彼は、そこに馬鹿らしさ以外の何物をも見出《みいだ》す事ができなかった。平たく云い直すと、彼は向うの短所ばかりに気を奪《と》られた。そうしてその裏側へ暗《あん》に自分の長所を点綴《てんてつ》して喜んだ。だから自分の短所にはけっして思い及ばなかったと同一の結果に帰着した。
医者の診察が済んだ後で、彼は下らない病気のために、一週間も一つ所に括《くく》りつけられなければならない現在の自分を悲観したくなった。気のせいか彼にはその現在が大変貴重に見えた。もう少し治療を後廻しにすれば好かったという後悔さえ腹の中には起った。
彼はまた吉川夫人の事を考え始めた。どうかして彼女をここへ呼びつける工夫はあるまいかと思うよりも、どうかして彼女がここへ来てくれればいいがと思う方に、心の調子がだんだん移って行った。自分を見破られるという意味で、平生からお延の直覚を悪く評価していたにもかかわらず、例外なこの場合だけには、そ
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