度には自然があった。
同時に津田から見たお延にも、またそれと同様の趣《おもむき》が出た。余事はしばらく問題外に措《お》くとして、結婚後彼らの間には、常に財力に関する妙な暗闘があった。そうしてそれはこう云う因果《いんが》から来た。普通の人のように富を誇りとしたがる津田は、その点において、自分をなるべく高くお延から評価させるために、父の財産を実際より遥《はる》か余計な額に見積ったところを、彼女に向って吹聴《ふいちょう》した。それだけならまだよかった。彼の弱点はもう一歩先へ乗り越す事を忘れなかった。彼のお延に匂《にお》わせた自分は、今より大変楽な身分にいる若旦那《わかだんな》であった。必要な場合には、いくらでも父から補助を仰ぐ事ができた。たとい仰がないでも、月々の支出に困る憂《うれい》はけっしてなかった。お延と結婚した時の彼は、もうこれだけの言責《げんせき》を彼女に対して背負《しょ》って立っていたのと同じ事であった。利巧《りこう》な彼は、財力に重きを置く点において、彼に優《まさ》るとも劣らないお延の性質をよく承知していた。極端に云えば、黄金《おうごん》の光りから愛その物が生れるとまで信ずる
前へ
次へ
全746ページ中419ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング