空気を搾《しぼ》り出《だ》すような恐ろしい力の圧迫と、圧《お》された空気が圧されながらに収縮する事ができないために起るとしか思われない劇《はげ》しい苦痛とが彼の記憶を襲《おそ》った。
 彼は不愉快になった。急に気を換《か》えて自分の周囲を眺めた。周囲のものは彼の存在にすら気がつかずにみんな澄ましていた。彼はまた考えつづけた。
「どうしてあんな苦しい目に会ったんだろう」
 荒川堤《あらかわづつみ》へ花見に行った帰り途から何らの予告なしに突発した当時の疼痛《とうつう》について、彼は全くの盲目漢《めくら》であった。その原因はあらゆる想像のほかにあった。不思議というよりもむしろ恐ろしかった。
「この肉体はいつ何時《なんどき》どんな変《へん》に会わないとも限らない。それどころか、今|現《げん》にどんな変がこの肉体のうちに起りつつあるかも知れない。そうして自分は全く知らずにいる。恐ろしい事だ」
 ここまで働らいて来た彼の頭はそこでとまる事ができなかった。どっと後《うしろ》から突き落すような勢で、彼を前の方に押しやった。突然彼は心の中《うち》で叫んだ。
「精神界も同じ事だ。精神界も全く同じ事だ。いつ
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