なければならなくなった。
「兄さん取っといて下さい」
「あなたいただいてもよくって」
 津田はにやにやと笑った。
「お秀妙だね。先刻はあんなに強硬だったのに、今度はまた馬鹿に安っぽく貰わせようとするんだね。いったいどっちが本当なんだい」
 お秀は屹《きっ》となった。
「どっちも本当です」
 この答は津田に突然であった。そうしてその強い調子が、どこまでも冷笑的に構えようとする彼の機鋒《きほう》を挫《くじ》いた。お延にはなおさらであった。彼女は驚ろいてお秀を見た。その顔は先刻と同じように火熱《ほて》っていた。けれども涼しい彼女の眼に宿る光りは、ただの怒りばかりではなかった。口惜《くや》しいとか無念だとかいう敵意のほかに、まだ認めなければならない或物がそこに陽炎《かげろ》った。しかしそれが何であるかは、彼女の口を通して聴《き》くよりほかに途《みち》がなかった。二人は惹《ひ》きつけられた。今まで持続して来た心の態度に角度の転換が必要になった。彼らは遮《さえ》ぎる事なしに、その輝やきの説明を、彼女の言葉から聴こうとした。彼らの予期と同時に、その言葉はお秀の口を衝《つ》いて出た。

       
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