てくれ」
 お秀の手先が怒りで顫《ふる》えた。両方の頬《ほお》に血が差した。その血は心のどこからか一度に顔の方へ向けて動いて来るように見えた。色が白いのでそれが一層|鮮《あざ》やかであった。しかし彼女の言葉|遣《づか》いだけはそれほど変らなかった。怒りの中《うち》に微笑さえ見せた彼女は、不意に兄を捨てて、輝やいた眼をお延の上に注いだ。
「嫂《ねえ》さんどうしましょう。せっかく兄さんがああおっしゃるものですから、置いて行って上げましょうか」
「そうね、そりゃ秀子さんの御随意でよござんすわ」
「そう。でも兄さんは絶対に必要だとおっしゃるのね」
「ええ良人《うち》には絶対に必要かも知れませんわ。だけどあたしには必要でも何でもないのよ」
「じゃ兄さんと嫂さんとはまるで別《べつ》ッこなのね」
「それでいて、ちっとも別ッこじゃないのよ。これでも夫婦だから、何から何までいっしょくたよ」
「だって――」
 お延は皆まで云わせなかった。
「良人に絶対に必要なものは、あたしがちゃんと拵《こしら》えるだけなのよ」
 彼女はこう云いながら、昨日《きのう》岡本の叔父《おじ》に貰って来た小切手を帯の間から出した。
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