延はどんな犠牲を払っても、その後を聴かなければ気がすまなかった。しかしその後はまたどうしても聴いていられなかった。先刻《さっき》から一言葉《ひとことば》ごとに一調子《ひとちょうし》ずつ高まって来た二人の遣取《やりとり》は、ここで絶頂に達したものと見傚《みな》すよりほかに途《みち》はなかった。もう一歩も先へ進めない極端まで来ていた。もし強《し》いて先へ出ようとすれば、どっちかで手を出さなければならなかった。したがってお延は不体裁《ふていさい》を防ぐ緩和剤《かんわざい》として、どうしても病室へ入らなければならなかった。
 彼女は兄妹《きょうだい》の中をよく知っていた。彼らの不和の原因が自分にある事も彼女には平生から解っていた。そこへ顔を出すには、出すだけの手際《てぎわ》が要《い》った。しかし彼女にはその自信がないでもなかった。彼女は際《きわ》どい刹那《せつな》に覚悟をきめた。そうしてわざと静かに病室の襖《ふすま》を開けた。

        百四

 二人ははたしてぴたりと黙った。しかし暴風雨がこれから荒れようとする途中で、急にその進行を止《と》められた時の沈黙は、けっして平和の象徴《シン
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