にまだ見出し得なかったお秀の変化に気がついた。今までの彼女は彼を通して常に鋒先《ほこさき》をお延に向けていた。兄を攻撃するのも嘘《うそ》ではなかったが、矢面《やおもて》に立つ彼をよそにしても、背後に控えている嫂《あね》だけは是非射とめなければならないというのが、彼女の真剣であった。それがいつの間にか変って来た。彼女は勝手に主客の位置を改めた。そうして一直線に兄の方へ向いて進んで来た。
「兄さん、妹は兄の人格に対して口を出す権利がないものでしょうか。よし権利がないにしたところで、もしそうした疑《うたがい》を妹が少しでももっているなら、綺麗《きれい》にそれを晴らしてくれるのが兄の義務――義務は取り消します、私には不釣合な言葉かも知れませんから。――少なくとも兄の人情でしょう。私は今その人情をもっていらっしゃらない兄さんを眼の前に見る事を妹として悲しみます」
「何を生意気な事を云うんだ。黙っていろ、何にも解りもしない癖に」
 津田の癇癪《かんしゃく》は始めて破裂した。
「お前に人格という言葉の意味が解るか。たかが女学校を卒業したぐらいで、そんな言葉をおれの前で人並に使うのからして不都合だ」

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