田にとってそれほど容易《たやす》い解決法はなかった。しかし行きがかりから云うと、これほどまた困難な自白はなかった。彼はお延の虚栄心をよく知り抜いていた。それにできるだけの満足を与える事が、また取《とり》も直《なお》さず彼の虚栄心にほかならなかった。お延の自分に対する信用を、女に大切なその一角《いっかく》において突き崩《くず》すのは、自分で自分に打撲傷《だぼくしょう》を与えるようなものであった。お延に気の毒だからという意味よりも、細君の前で自分の器量を下げなければならないというのが彼の大きな苦痛になった。そのくらいの事をと他《ひと》から笑われるようなこんな小さな場合ですら、彼はすぐ動く気になれなかった。家には現に金がある、お延に対して自己の体面を保つには有余《ありあま》るほどの金がある。のにという勝手な事実の方がどうしても先に立った。
 その上彼はどんな時にでもむかっ腹を立てる男ではなかった。己《おの》れを忘れるという事を非常に安っぽく見る彼は、また容易に己れを忘れる事のできない性質《たち》に父母から生みつけられていた。
「できなければ死ぬまでさ」と放《ほう》り出《だ》すように云った後で
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