であった。
「良人《うち》でも困るのよ。あんな手紙をお母さんから寄こされると」
学校を卒業して、相当の職にありついて、新らしく家庭を構える以上、曲りなりにも親の厄介にならずに、独立した生計を営なんで行かなければならないという父の意見を翻《ひる》がえさせたものは堀の力であった。津田から頼まれて、また無雑作《むぞうさ》にそれを引き受けた堀は、物価の騰貴《とうき》、交際の必要、時代の変化、東京と地方との区別、いろいろ都合の好い材料を勝手に並べ立てて、勤倹一方の父を口説《くど》き落《おと》したのである。その代り盆暮に津田の手に渡る賞与の大部分を割《さ》いて、月々の補助を一度に幾分か償却させるという方針を立てたのも彼であった。その案の成立と共に責任のできた彼はまた至極《しごく》呑気《のんき》な男であった。約束の履行《りこう》などという事は、最初から深く考えなかったのみならず、遂行《すいこう》の時期が来た時分には、もうそれを忘れていた。詰責《きっせき》に近い手紙を津田の父から受取った彼は、ほとんどこの事件を念頭においていなかっただけに、驚ろかされた。しかし現金の綺麗《きれい》に消費されてしまった
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