のその妹は、もう二人の子持であった。長男はすでに四年前に生れていた。単に母であるという事実が、彼女の自覚を呼び醒《さ》ますには充分であった。彼女の心は四年以来いつでも母であった。母でない日はただの一日もなかった。
彼女の夫は道楽ものであった。そうして道楽ものによく見受けられる寛大の気性を具えていた。自分が自由に遊び廻る代りに、細君にもむずかしい顔を見せない、と云ってむやみに可愛《かわい》がりもしない。これが彼のお秀に対する態度であった。彼はそれを得意にしていた。道楽の修業を積んで始めてそういう境界《きょうがい》に達せられるもののように考えていた。人世観という厳《いか》めしい名をつけて然《しか》るべきものを、もし彼がもっているとすれば、それは取りも直さず、物事に生温《なまぬる》く触れて行く事であった。微笑して過ぎる事であった。何《なん》にも執着しない事であった。呑気《のんき》に、ずぼらに、淡泊《たんぱく》に、鷹揚《おうよう》に、善良に、世の中を歩いて行く事であった。それが彼のいわゆる通《つう》であった。金に不自由のない彼は、今までそれだけで押し通して来た。またどこへ行っても不足を感じな
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