ゃ電話はかけなかったのかい」
「いいえかけたんでございます」
「かけても通じなかったのかい」
 問答を重ねているうちに、お時の病院へ行った意味がようやくお延に呑《の》み込めるようになって来た。――始め通じなかった電話は、しまいに通じるだけは通じても用を弁ずる事ができなかった。看護婦を呼び出して用事を取次いで貰おうとしたが、それすらお時の思うようにはならなかった。書生だか薬局員だかが始終《しじゅう》相手になって、何か云うけれども、それがまたちっとも要領を得なかった。第一言語が不明暸《ふめいりょう》であった。それから判切《はっきり》聞こえるところも辻褄《つじつま》の合わない事だらけだった。要するにその男はお時の用事を津田に取次いでくれなかったらしいので、彼女はとうとう諦《あき》らめて、電話箱を出てしまった。しかし義務を果さないでそのまま宅《うち》へ帰るのが厭《いや》だったので、すぐその足で電車へ乗って病院へ向った。
「いったん帰って、伺ってからにしようかと思いましたけれども、ただ時間が長くかかるぎりでございますし、それにお客さまがこうして待っておいでの事をなまじい存じておるものでございます
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