るために生きているんです。わざわざ人の厭がるような事を云ったりしたりするんです。そうでもしなければ苦しくってたまらないんです。生きていられないのです。僕の存在を人に認めさせる事ができないんです。僕は無能です。幾ら人から軽蔑《けいべつ》されても存分な讐討《かたきうち》ができないんです。仕方がないからせめて人に嫌われてでも見ようと思うのです。それが僕の志願なのです」
お延の前にまるで別世界に生れた人の心理状態が描き出された。誰からでも愛されたい、また誰からでも愛されるように仕向けて行きたい、ことに夫に対しては、是非共そうしなければならない、というのが彼女の腹であった。そうしてそれは例外なく世界中の誰にでも当《あ》て篏《はま》って、毫《ごう》も悖《もと》らないものだと、彼女は最初から信じ切っていたのである。
「吃驚《びっく》りしたようじゃありませんか。奥さんはまだそんな人に会った事がないんでしょう。世の中にはいろいろの人がありますからね」
小林は多少|溜飲《りゅういん》の下りたような顔をした。
「奥さんは先刻《さっき》から僕を厭がっている。早く帰ればいい、帰ればいいと思っている。ところが
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