という事に過ぎなかった。彼に地位がないという点にほかならなかった。売れもしない雑誌の編輯《へんしゅう》、そんなものはきまった職業として彼女の眼に映るはずがなかった。彼女の見た小林は、常に無籍《むせき》もののような顔をして、世の中をうろうろしていた。宿なしらしい愚痴《ぐち》を零《こぼ》して、厭《いや》がらせにそこいらをまごつき歩くだけであった。
しかしこの種の軽蔑に、ある程度の不気味はいつでも附物《つきもの》であった。ことにそういう階級に馴《な》らされない女、しかも経験に乏しい若い女には、なおさらの事でなければならなかった。少くとも小林の前に坐ったお延はそう感じた。彼女は今までに彼ぐらいな貧しさの程度の人に出合わないとは云えなかった。しかし岡本の宅《うち》へ出入《ではい》りをするそれらの人々は、みんなその分を弁《わきま》えていた。身分には段等《だんとう》があるものと心得て、みんなおのれに許された範囲内においてのみ行動をあえてした。彼女はいまだかつて小林のように横着な人間に接した例がなかった。彼のように無遠慮に自分に近づいて来るもの、富も位地もない癖に、彼のように大きな事を云うもの、彼の
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