が、彼女にとって存外重い負担であったのに驚ろかされた。しかし偶発的に起ったこの瞬間の覚醒《かくせい》は無論長く続かなかった。いったん解放された自由の眼で、やきもきした昨夕《ゆうべ》の自分を嘲《あざ》けるように眺めた彼女が床を離れた時は、もうすでに違った気分に支配されていた。
彼女は主婦としていつもやる通りの義務を遅いながら綺麗《きれい》に片づけた。津田がいないので、だいぶ省《はぶ》ける手数《てすう》を利用して、下女も煩《わずら》わさずに、自分で自分の着物を畳んだ。それから軽い身仕舞《みじまい》をして、すぐ表へ出た彼女は、寄道もせずに、通りから半丁ほど行った所にある、新らしい自動電話の箱の中に入った。
彼女はそこで別々の電話を三人へかけた。その三人のうちで一番先に択《えら》ばれたものは、やはり津田であった。しかし自分で電話口へ立つ事のできない横臥《おうが》状態にある彼の消息は、間接に取次の口から聞くよりほかに仕方がなかった。ただ別に異状のあるはずはないと思っていた彼女の予期は外《はず》れなかった。彼女は「順当でございます、お変りはございません」という保証の言葉を、看護婦らしい人の声か
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