に、一人耳を澄ましている彼女の胸に、どこからともなく逼《せま》ってくる孤独の感が、先刻《さっき》帰った時よりもなお劇《はげ》しく募《つの》って来た。それが平生遅い夫の戻りを待ちあぐんで起す淋《さび》しみに比べると、遥《はる》かに程度が違うので、お延は思わず病院に寝ている夫の姿を、懐《なつ》かしそうに心の眼で眺めた。
「やっぱりあなたがいらっしゃらないからだ」
彼女は自分の頭の中に描き出した夫の姿に向ってこう云った。そうして明日《あした》は何をおいても、まず病院へ見舞に行かなければならないと考えた。しかし次の瞬間には、お延の胸がもうぴたりと夫の胸に食《くっ》ついていなかった。二人の間に何だか挟《はさ》まってしまった。こっちで寄り添おうとすればするほど、中間《ちゅうかん》にあるその邪魔ものが彼女の胸を突ッついた。しかも夫は平気で澄ましていた。半《なか》ば意地になった彼女の方でも、そんなら宜《よろ》しゅうございますといって、夫に背中を向けたくなった。
こういう立場まで来ると、彼女の空想は会釈《えしゃく》なく吉川夫人の上に飛び移らなければならなかった。芝居場で一度考えた通り、もし今夜あの夫
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