胸に痞《つか》えていたからであった。それをいよいよ席を立とうとする間際《まぎわ》になって、向うから切り出された時のお延は、ただ夫人の云訳に対してのみ、嘘《うそ》らしいという疑を抱《いだ》くだけではすまなかった。今頃になって夫の病気の見舞をいってくれる夫人の心の中には、やむをえない社交上の辞令以外に、まだ何か存在しているのではなかろうかと考えた。
「ありがとうございます。お蔭《かげ》さまで」
「もう手術をなすったの」
「ええ今日《こんち》」
「今日《きょう》? それであなたよくこんな所へ来られましたね」
「大した病気でもございませんものですから」
「でも寝ていらっしゃるんでしょう」
「寝てはおります」
夫人はそれで構わないのかという様子をした。少なくとも彼女の黙っている様子がお延にはそう見えた。他《ひと》に対して男らしく無遠慮にふるまっている夫人が、自分にだけは、まるで別な人間として出てくるのではないかと思われた。
「病院へ御入《おはい》りになって」
「病院と申すほどの所ではございませんが、ちょうどお医者様の二階が空《あ》いておるので、五六日《ごろくんち》そこへおいていただく事にしてお
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