になりまして」と云った。けれども夫人はその時その津田については一言《ひとこと》も口を利かなかった。自分が挨拶を交換した最後の同席者である以上、そこにはそれだけの口を利く余裕が充分あったにも関わらず、夫人は、すぐよそを向いてしまった。そうして二三日前《にさんちまえ》津田から受けた訪問などは、まるで忘れているような風をした。
お延は夫人のこの挙動を、自分が嫌《きら》われているからだとばかり解釈しなかった。嫌われている上に、まだ何か理由があるに違ないと思った。でなければ、いくら夫人でも、とくに津田の名前を回避するような素振《そぶり》を、彼の妻たるものに示すはずがないと思った。彼女は自分の夫がこの夫人の気に入っているという事実をよく承知していた。しかし単に夫を贔負《ひいき》にしてくれるという事が、何でその人を妻の前に談話の題目として憚《はば》かられるのだろう。お延は解らなかった。彼女が会食中、当然|他《ひと》に好かれべき女性としての自己の天分を、夫人の前に発揮するために、二人の間に存在する唯一《ゆいいつ》の共通点とも見られる津田から出立しようと試みて、ついに出立し得なかったのも、一つはこれが
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