な」
「一昔前って何年頃なの、いったい」
「さよう西暦《せいれき》……」
自然だか偶然だか叔父はもったいぶった考え方をした。
「普仏戦争《ふふつせんそう》時分?」
「馬鹿にしちゃいけません。これでもあなたの旦那様《だんなさま》を案内して倫敦《ロンドン》を連れて歩いて上げた覚《おぼえ》があるんだから」
「じゃ巴理《パリ》で籠城《ろうじょう》した組じゃないのね」
「冗談じゃない」
三好の洋行談をひとしきりで切り上げた夫人は、すぐ話頭を、それと関係の深い他の方面へ持って行った。自然吉川は岡本の相手にならなければすまなくなった。
「何しろ自動車のできたてで、あれが通ると、みんなふり返って見た時分だったからね」
「うん、あの鈍臭《のろくさ》いバスがまだ幅を利《き》かしていた時代だよ」
その鈍臭いバスが、そういう交通機関を自分で利用した記憶のないほかの者にとって、何の思い出にならなかったにも関わらず、当時を回顧する二人の胸には、やっぱり淡い一種の感慨を惹《ひ》き起すらしく見えた。継子と三好を見較《みくら》べた岡本は、苦笑しながら吉川に云った。
「お互に年を取ったもんだね。不断はちっとも気がつ
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