態度を礼儀から出た本当の遠慮と解釈して貰うように、これから仕向けて行かなければならないという意志もすぐ働らいた。その意志は自分と正反対な継子の初心《うぶ》らしい様子を、食卓越《テーブルごし》に眺めた時、ますます強固にされた。
 継子はまたいつもよりおとなし過ぎた。ろくろく口も利《き》かないで、下ばかり向いている彼女の態度の中《うち》には、ほとんど苦痛に近い或物が見透《みすか》された。気の毒そうに彼女を一目見やったお延は、すぐ前にいる夫人の方へ、彼女に特有な愛嬌《あいきょう》のある眼を移した。社交に慣れ切った夫人も黙っている人ではなかった。
 調子の好い会話の断片が、二三度二人の間を往ったり来たりした。しかしそれ以上に発展する余地のなかった題目は、そこでぴたりととまってしまった。二人の間に共通な津田を話の種にしようと思ったお延が、それを自分から持ち出したものかどうかと遅疑《ちぎ》しているうちに、夫人はもう自分を置き去りにして、遠くにいる三好に向った。
「三好さん、黙っていないで、ちっとあっちの面白い話でもして継子さんに聞かせてお上げなさい」
 ちょうど叔母と話を途切《とぎ》らしていた三好
前へ 次へ
全746ページ中180ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング