の鳴るまでついに一言《ひとこと》も口を利《き》かなかった。
四十六
「よく来られたのね。ことによると今日はむずかしいんじゃないかって、先刻《さっき》継《つぎ》と話してたの」
幕が引かれてから、始めてうち寛《くつ》ろいだ様子を示した細君は、ようやくお延に口を利き出した。
「そら御覧なさい、あたしの云った通りじゃなくって」
誇り顔に母の方を見てこう云った継子はすぐお延に向ってその後《あと》を云い足した。
「あたしお母さまと賭《かけ》をしたのよ。今日あなたが来るか来ないかって。お母さまはことによると来ないだろうっておっしゃるから、あたしきっといらっしゃるに違ないって受け合ったの」
「そう。また御神籤《おみくじ》を引いて」
継子は長さ二寸五分幅六分ぐらいの小さな神籤箱の所有者であった。黒塗の上へ篆書《てんしょ》の金文字で神籤と書いたその箱の中には、象牙《ぞうげ》を平たく削《けず》った精巧の番号札が数通《かずどお》り百本納められていた。彼女はよく「ちょっと見て上げましょうか」と云いながら、小楊枝入《こようじいれ》を取り扱うような手つきで、短冊形《たんざくがた》の薄い象牙
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