ぶろうとした。するとお延がそうさせなかった。
「あの岡本でね、今日是非芝居へいっしょに来いって云うんですが、行っちゃいけなくって」
 気のよく廻る津田の頭に、今朝からのお延の所作《しょさ》が一度に閃《ひら》めいた。病院へ随《つ》いて来るにしては派出過《はです》ぎる彼女の衣裳《いしょう》といい、出る前に日曜だと断った彼女の注意といい、ここへ来てから、そわそわして岡本へ電話をかけた彼女の態度といい、ことごとく芝居の二字に向って注《そそ》ぎ込《こ》まれているようにも取れた。そういう眼で見ると、手術の時間を精密に計った彼女の動機さえ疑惑の種にならないではすまなかった。津田は黙って横を向いた。床《とこ》の間《ま》の上に取り揃《そろ》えて積み重ねてある、封筒だの書翰用紙《しょかんようし》だの鋏《はさみ》だの書物だのが彼の眼についた。それは先刻《さっき》鞄《かばん》へ入れて彼がここへ持って来たものであった。
「看護婦に小さい机を借りて、その上へ載せようと思ったんですけれども、まだ持って来てくれないから、しばらくの間、ああしておいたのよ。本でも御覧になって」
 お延はすぐ立って床の間から書物をおろした
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