》いたいな」
「お湯にいらっしゃる時、この室《へや》の横をお通りになりますから、御覧になりたければ、いつでも――」
「拝見できるのか、そいつはありがたい」
 津田は女のいる方角だけ教わって、膳《ぜん》を下げさせた。

        百七十三

 寝る前に一風呂浴びるつもりで、下女に案内を頼んだ時、津田は始めて先刻《さっき》彼女から聴《き》かされたこの家の広さに気がついた。意外な廊下を曲ったり、思いも寄らない階子段《はしごだん》を降りたりして、目的の湯壺《ゆつぼ》を眼の前に見出《みいだ》した彼は、実際一人で自分の座敷へ帰れるだろうかと疑った。
 風呂場は板と硝子戸《ガラスど》でいくつにか仕切られていた。左右に三つずつ向う合せに並んでいる小型な浴槽《よくそう》のほかに、一つ離れて大きいのは、普通の洗湯に比べて倍以上の尺があった。
「これが一番大きくって心持がいいでしょう」と云った下女は、津田のために擦《すり》硝子の篏《はま》った戸をがらがらと開けてくれた。中には誰もいなかった。湯気が籠《こも》るのを防ぐためか、座敷で云えば欄間《らんま》と云ったような部分にも、やはり硝子戸の設けがあって、半分ほど隙《す》かされたその二枚の間から、冷たい一道の夜気が、※[#「糸」+褞のつくり」、第3水準1−90−18]袍《どてら》を脱ぎにかかった津田の身体《からだ》を、山里らしく襲《おそ》いに来た。
「ああ寒い」
 津田はざぶんと音を立てて湯壺の中へ飛び込んだ。
「ごゆっくり」
 戸を閉めて出ようとした下女はいったんこう云った後で、また戻って来た。
「まだ下にもお風呂場がございますから、もしそちらの方がお気に入るようでしたら、どうぞ」
 来る時もう階子段を一つか二つ下りている津田には、この浴槽の階下《した》がまだあろうとは思えなかった。
「いったい何階なのかね、この家《うち》は」
 下女は笑って答えなかった。しかし用事だけは云い残さなかった。
「ここの方が新らしくって綺麗《きれい》は綺麗ですが、お湯は下の方がよく利《き》くのだそうです。だから本当に療治の目的でおいでの方はみんな下へ入らっしゃいます。それから肩や腰を滝でお打たせになる事も下ならできます」
 湯壺から首だけ出したままで津田は答えた。
「ありがとう。じゃ今度《こんだ》そっちへ入るから連れてってくれたまえ」
「ええ。旦那様《だん
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