その何処《いずこ》にも興味を見出《みい》だし得なかった彼は、会談の圏外《けんがい》へ放逐《ほうちく》されるまでもなく、自分から埒《らち》を脱《ぬ》け出したと同じ事であった。これだけでも一通り以上の退屈である上に、津田は厭《いや》がらせる積極的なものがまだ一つあった。彼は自分の眼前に見るこの二人、ことに小林を、むやみに新らしい芸術をふり廻したがる半可通《はんかつう》として、最初から取扱っていた。彼はこの偏見《プレジュジス》の上へ、乙《おつ》に識者ぶる彼らの態度を追加して眺めた。この点において無知な津田を羨《うら》やましがらせるのが、ほとんど二人の目的ででもあるように見え出した時、彼は無理にいったん落ちつけた腰をまた浮かしにかかった。すると小林がまた抑留した。
「もう直《じき》だ、いっしょに行くよ、少し待ってろ」
「いやあんまり遅くなるから……」
「何もそんなに他《ひと》に恥を掻かせなくってもよかろう。それとも原君が食っちまうまで待ってると、紳士の体面に関わるとでも云うのか」
原は刻んだサラドをハムの上へ載せて、それを肉叉《フォーク》で突き差した手を止《や》めた。
「どうぞお構いなく」
津田が軽く会釈《えしゃく》を返して、いよいよ立ち上がろうとした時、小林はほとんど独りごとのように云った。
「いったいこの席を何と思ってるんだろう。送別会と号して他を呼んでおきながら、肝心《かんじん》のお客さんを残して、先へ帰っちまうなんて、侮辱を与える奴《やつ》が世の中にいるんだから厭《いや》になるな」
「そんなつもりじゃないよ」
「つもりでなければ、もう少《すこし》いろよ」
「少し用があるんだ」
「こっちにも少し用があるんだ」
「絵なら御免だ」
「絵も無理に買えとは云わないよ。吝《けち》な事を云うな」
「じゃ早くその用を片づけてくれ」
「立ってちゃ駄目だ。紳士らしく坐《すわ》らなくっちゃ」
仕方なしにまた腰をおろした津田は、袂《たもと》から煙草を出して火を点《つ》けた。ふと見ると、灰皿は敷島の残骸《ざんがい》でもういっぱいになっていた。今夜の記念としてこれほど適当なものはないという気が、偶然津田の頭に浮かんだ。これから呑《の》もうとする一本も、三分|経《た》つか経たないうちに、灰と煙と吸口だけに変形して、役にも立たない冷たさを皿の上にとどめるに過ぎないと思うと、彼は何となく厭な心
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