持がした。
「何だい、その用事というのは。まさか無心じゃあるまいね、もう」
「だから吝な事を云うなと、先刻《さっき》から云ってるじゃないか」
小林は右の手で背広《せびろ》の右前を掴《つか》んで、左の手を隠袋《ポケット》の中へ入れた。彼は暗闇《くらやみ》で物を探《さぐ》るように、しばらく入れた手を、背広の裏側で動かしながら、その間|始終《しじゅう》眼を津田の顔へぴったり付けていた。すると急に突飛な光景《シーン》が、津田の頭の中に描き出された。同時に変な妄想《もうぞう》が、今呑んでいる煙草の煙のように、淡く彼の心を掠《かす》めて過ぎた。
「此奴《こいつ》は懐《ふところ》から短銃《ピストル》を出すんじゃないだろうか。そうしてそれをおれの鼻の先へ突きつけるつもりじゃないかしら」
芝居じみた一刹那《いっせつな》が彼の予感を微《かす》かに揺《ゆす》ぶった時、彼の神経の末梢《まっしょう》は、眼に見えない風に弄《なぶ》られる細い小枝のように顫動《せんどう》した。それと共に、妄《みだ》りに自分で拵《こしら》えたこの一場《いちじょう》の架空劇をよそ目に見て、その荒誕《こうたん》を冷笑《せせらわら》う理智の力が、もう彼の中心に働らいていた。
「何を探しているんだ」
「いやいろいろなものがいっしょに入ってるからな、手の先でよく探しあてた上でないと、滅多《めった》に君の前へは出されないんだ」
「間違えて先刻《さっき》放《ほう》り込んだ札《さつ》でも出すと、厄介だろう」
「なに札は大丈夫だ。ほかの紙片《かみぎれ》と違って活きてるから。こうやって、手で障《さわ》って見るとすぐ分るよ。隠袋《ポケット》の中で、ぴちぴち跳《は》ねてる」
小林は減らず口を利《き》きながら、わざと空《むな》しい手を出した。
「おやないぞ。変だな」
彼は左胸部にある表隠袋《おもてかくし》へ再び右の手を突き込んだ。しかしそこから彼の撮《つま》み出したものは皺《しわ》だらけになった薄汚ない手帛《ハンケチ》だけであった。
「何だ手品《てづま》でも使う気なのか、その手帛で」
小林は津田の言葉を耳にもかけなかった。真面目《まじめ》な顔をして、立ち上りながら、両手で腰の左右を同時に叩《たた》いた後で、いきなり云った。
「うんここにあった」
彼の洋袴《ズボン》の隠袋から引き摺《ず》り出したものは、一通の手紙であった。
「実は
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