問題が残っていた。二人はそこをふり返らないで話を切り上げる訳に行かなかった。夫人が踵《きびす》を回《めぐ》らさないうちに、津田は帰った。
「それで私が行くとしたら、どうなるんです、先刻《さっき》おっしゃった事は」
「そこです。そこを今云おうと思っていたのよ。私に云わせると、これほど好い療治はないんですがね。どうでしょう、あなたのお考えは」
 津田は答えなかった。夫人は念を押した。
「解ったでしょう。後は云わなくっても」
 夫人の意味は説明を待たないでもほぼ津田に呑《の》み込めた。しかしそれをどんな風にして、お延の上に影響させるつもりなのか、そこへ行くと彼には確《しか》とした観念がなかった。夫人は笑い出した。
「あなたは知らん顔をしていればいいんですよ。後は私の方でやるから」
「そうですか」と答えた津田の頭には疑惑があった。後《あと》を挙《あ》げて夫人に一任するとなると、お延の運命を他人に委《ゆだ》ねると同じ事であった。多少夫人の手腕を恐れている彼は危ぶんだ。何をされるか解らないという掛念《けねん》に制せられた。
「お任せしてもいいんですが、手段や方法が解っているなら伺っておく方が便利かと思います」
「そんな事はあなたが知らないでもいいのよ。まあ見ていらっしゃい、私《わたし》がお延さんをもっと奥さんらしい奥さんにきっと育て上げて見せるから」
 津田の眼に映るお延は無論不完全であった。けれども彼の気に入らない欠点が、必ずしも夫人の難の打ち所とは限らなかった。それをちゃんぽんに混同しているらしい夫人は、少くとも自分に都合のいいお延を鍛《きた》え上げる事が、すなわち津田のために最も適当な細君を作り出す所以《ゆえん》だと誤解しているらしかった。それのみか、もう一歩夫人の胸中に立ち入って、その真底《しんそこ》を探《さぐ》ると、とんでもない結論になるかも知れなかった。彼女はただお延を好かないために、ある手段を拵《こしら》えて、相手を苛《いじ》めにかかるのかも分らなかった。気に喰わないだけの根拠で、敵を打ち懲《こ》らす方法を講じているのかも分らなかった。幸《さいわい》に自分でそこを認めなければならないほどに、世間からも己《おの》れからも反省を強《し》いられていない境遇にある彼女は、気楽であった。お延の教育。――こういう言葉が臆面《おくめん》なく彼女の口を洩れた。夫人とお延の間柄を、
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