内面から看破《みやぶ》る機会に出会った事のない津田にはまたその言葉を疑う資格がなかった。彼は大体の上で夫人の実意を信じてかかった。しかし実意の作用に至ると、勢い危惧《きぐ》の念が伴なわざるを得なかった。
「心配する事があるもんですか。細工はりゅうりゅう仕上《しあげ》を御覧《ごろ》うじろって云うじゃありませんか」
 いくら津田が訊《き》いても詳しい話しをしなかった夫人は、こんな高を括《くく》った挨拶《あいさつ》をした後で、教えるように津田に云った。
「あの方《かた》は少し己惚《おのぼ》れ過ぎてるところがあるのよ。それから内側と外側がまだ一致しないのね。上部《うわべ》は大変|鄭寧《ていねい》で、お腹《なか》の中はしっかりし過ぎるくらいしっかりしているんだから。それに利巧《りこう》だから外へは出さないけれども、あれでなかなか慢気《まんき》が多いのよ。だからそんなものを皆《み》んな取っちまわなくっちゃ……」
 夫人が無遠慮な評をお延に加えている最中に、階子段《はしごだん》の中途で足を止《と》めた看護婦の声が二人の耳に入った。
「吉川の奥さんへ堀さんとおっしゃる方から電話でございます」
 夫人は「はい」と応じてすぐ立ったが、敷居の所で津田を顧みた。
「何の用でしょう」
 津田にも解らなかったその用を足すために下へ降りて行った夫人は、すぐまた上って来ていきなり云った。
「大変大変」
「何が? どうかしたんですか」
 夫人は笑いながら落ちついて答えた。
「秀子さんがわざわざ注意してくれたの」
「何をです」
「今まで延子さんが秀子さんの所へ来て話していたんですって。帰りに病院の方へ廻るかも知れないから、ちょっとお知らせするって云うのよ。今秀子さんの門を出たばかりのところだって。――まあ好かった。悪口でも云ってるところへ来られようもんなら、大恥《おおはじ》を掻《か》かなくっちゃならない」
 いったん坐《すわ》った夫人は、間もなくまた立った。
「じゃ私《わたし》はもうお暇《いとま》にしますからね」
 こんな打ち合せをした後でお延の顔を見るのは、彼女にとってもきまりが好くないらしかった。
「いらっしゃらないうちに、早く退却しましょう。どうぞよろしく」
 一言《ひとこと》の挨拶《あいさつ》を彼女に残したまま、夫人はついに病室を出た。

        百四十三

 この時お延の足はすでに病
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