けよ。あなたの様子なり態度なりがそれだけの事をちゃんとあたしに解るようにして下さるだけよ」
夫人はそこでちょっと休んだ。それから後を付けた。
「どうですあたったでしょう。あたしはあなたがなぜそんな体裁《ていさい》を作っているんだか、その原因までちゃんと知ってるんですよ」
百三十六
津田は今日までこういう種類の言葉をまだ夫人の口から聴《き》いた事がなかった。自分達夫婦の仲を、夫人が裏側からどんな眼で観察しているだろうという問題について、さほど神経を遣《つか》っていなかった彼は、ようやくそこに気がついた。そんならそうと早く注意してくれればいいのにと思いながら、彼はとにかく夫人の鑑定なり料簡《りょうけん》なりをおとなしく結末まで聴くのが上分別《じょうふんべつ》だと考えた。
「どうぞ御遠慮なく何でもみんな云って下さい。私の向後《こうご》の心得にもなる事ですから」
途中まで来た夫人は、たとい津田から誘われないでも、もうそこで止《と》まる訳に行かないので、すぐ残りのものを津田の前に投げ出した。
「あなたは良人《うち》や岡本の手前があるので、それであんなに延子さんを大事になさるんでしょう。もっと露骨なのがお望みなら、まだ露骨にだって云えますよ。あなたは表向《おもてむき》延子さんを大事にするような風をなさるのね、内側はそれほどでなくっても。そうでしょう」
津田は相手の観察が真逆《まさか》これほど皮肉な点まで切り込んで来ていようとは思わなかった
「私の性質なり態度なりが奥さんにそう見えますか」
「見えますよ」
津田は一刀《ひとかたな》で斬られたと同じ事であった。彼は斬られた後《あと》でその理由を訊《き》いた。
「どうして? どうしてそう見えるんですか」
「隠さないでもいいじゃありませんか」
「別に隠すつもりでもないんですが……」
夫人は自分の推定が十の十まであたったと信じてかかった。心の中《うち》でその六だけを首肯《うけが》った津田の挨拶《あいさつ》は、自然どこかに曖昧《あいまい》な節《ふし》を残さなければならなかった。それがこの場合誤解の種になるのは見やすい道理であった。夫人はどこまでも同じ言葉を繰り返して、津田を自分の好きな方角へのみ追い込んだ。
「隠しちゃ駄目よ。あなたが隠すと後が云えなくなるだけだから」
津田は是非その後を聴きたかった。その後
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