を聴こうとすれば、夫人の認定を一から十まで承知するよりほかに仕方がなかった。夫人は「それ御覧なさい」と津田をやりこめた後で歩を進めた。
「あなたにはてんから誤解があるのよ。あなたは私《わたし》を良人《うち》といっしょに見ているんでしょう。それから良人と岡本をまたいっしょに見ているんでしょう。それが大間違よ。岡本と良人をいっしょに見るのはまだしも、私を良人や岡本といっしょにするのはおかしいじゃありませんか、この事件について。学問をした方にも似合わないのねあなたも、そんなところへ行くと」
 津田はようやく夫人の立場を知る事ができた。しかしその立場の位置及びそれが自分に対してどんな関係になっているのかまだ解らなかった。夫人は云った。
「解り切ってるじゃありませんか。私だけはあなたと特別の関係があるんですもの」
 特別の関係という言葉のうちに、どんな内容が盛られているか、津田にはよく解った。しかしそれは目下の問題ではなかった。なぜと云えば、その特別な関係をよく呑《の》み込んでいればこそ、今日《こんにち》までの自分の行動にも、それ相当な一種の色と調子を与えて来たつもりだと彼は信じていたのだから。この特別な関係が夫人をどう支配しているか、そこをもっと明らかに突きとめたところに、新らしい問題は始めて起るのだと気がついた彼は、ただ自分の誤解を認めるだけではすまされなかった。
 夫人は一口に云い払った。
「私はあなたの同情者よ」
 津田は答えた。
「それは今までついぞ疑《うたぐ》って見た例《ためし》もありません。私《わたくし》は信じ切っています。そうしてその点で深くあなたに感謝しているものです。しかしどういう意味で? どういう意味で同情者になって下さるつもりなんですか、この場合。私は迂濶《うかつ》ものだから奥さんの意味がよく呑《の》み込めません。だからもっと判然《はっき》り話して下さい」
「この場合に同情者として私《わたし》があなたにして上げる事がただ一つあると思うんです。しかしあなたは多分――」
 夫人はこれだけ云って津田の顔を見た。津田はまた焦《じ》らされるのかと思った。しかしそうでないと断言した夫人の問は急に変った。
「私の云う事を聴《き》きますか、聴きませんか」
 津田にはまだ常識が残っていた。彼はここへ押しつめられた何人《なんびと》も考えなければならない事を考えた。しかし考
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