い事を誰も訊《き》いていやしないんだから」
津田はとうとう口を開くべく余儀なくされた。
「お返事ができない訳でもありませんけれども、あんまり問題が漠然《ばくぜん》としているものですから……」
「じゃ仕方がないから私の方で云いましょうか。よござんすか」
「どうぞそう願います」
「あなたは」と云いかけた夫人はこの時ちょっと言葉を切ってまた継《つ》いだ。
「本当によござんすか。――あたしはこういう無遠慮な性分《しょうぶん》だから、よく自分の思ったままをずばずば云っちまった後《あと》で、取り返しのつかない事をしたと後悔する場合がよくあるんですが」
「なに構いません」
「でももしか、あなたに怒られるとそれっきりですからね。後でいくら詫《あや》まっても追《おっ》つかないなんて馬鹿はしたくありませんもの」
「しかし私の方で何とも思わなければそれでいいでしょう」
「そこさえ確かなら無論いいのよ」
「大丈夫です。偽《うそ》だろうが本当だろうが、奥さんのおっしゃる事ならけっして腹は立てませんから、遠慮なさらずに云って下さい」
すべての責任を向うに背負《しょ》わせてしまう方が遥《はる》かに楽だと考えた津田は、こう受け合った後で、催促するように夫人を見た。何度となく駄目《だめ》を押して保険をつけた夫人はその時ようやく口を開いた。
「もし間違ったら御免遊ばせよ。あなたはみんなが考えている通り、腹の中ではそれほど延子さんを大事にしていらっしゃらないでしょう。秀子さんと違って、あたしは疾《と》うからそう睨《にら》んでいるんですが、どうです、あたしの観測はあたりませんかね」
津田は何ともなかった。
「無論です。だから先刻《さっき》申し上げたじゃありませんか。そんなにお延を大事にしちゃいませんて」
「しかしそれは御挨拶《ごあいさつ》におっしゃっただけね」
「いいえ私は本当のところを云ったつもりです」
夫人は断々乎《だんだんこ》として首肯《うけが》わなかった。
「ごまかしっこなしよ。じゃ後《あと》を云ってもよござんすか」
「ええどうぞ」
「あなたは延子さんをそれほど大事にしていらっしゃらないくせに、表ではいかにも大事にしているように、他《ひと》から思われよう思われようとかかっているじゃありませんか」
「お延がそんな事でも云ったんですか」
「いいえ」と夫人はきっぱり否定した。「あなたが云ってるだ
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