話のかけ方はなかろうかと苦心した。しかしその苦心は水の泡《あわ》を製造する努力とほぼ似たものであった。いくら骨を折って拵《こしら》えても、すぐ後から消えて行くだけであった。根本的に無理な空想を実現させようと巧《たく》らんでいるのだから仕方がないと気がついた時、彼は一人で苦笑してまた硝子越《ガラスごし》に表を眺めた。
 表はいつか風立《かぜだ》った。洗濯屋の前にある一本の柳の枝が白い干物といっしょになって軽く揺れていた。それを掠《かす》めるようにかけ渡された三本の電線も、よそと調子を合せるようにふらふらと動いた。

        百十五

 下から上《あが》って来た医者には、その時の津田がいかにも退屈そうに見えた。顔を合せるや否や彼は「いかがです」と訊《き》いた後で、「もう少しの我慢です」とすぐ慰めるように云った。それから彼は津田のためにガーゼを取り易えてくれた。
「まだ創口《きずぐち》の方はそっとしておかないと、危険ですから」
 彼はこう注意して、じかに局部を抑《おさ》えつけている個所を少し緩《ゆる》めて見たら、血が煮染《にじ》み出したという話を用心のためにして聴《き》かせた。
 取り易《か》えられたガーゼは一部分に過ぎなかった。要所を剥《は》がすと、血が迸《ほとば》しるかも知れないという身体《からだ》では、津田も無理をして宅《うち》へ帰る訳に行かなかった。
「やッぱり予定通りの日数《にっすう》は動かずにいるよりほかに仕方がないでしょうね」
 医者は気の毒そうな顔をした。
「なに経過次第じゃ、それほど大事を取るにも及ばないんですがね」
 それでも医者は、時間と経済に不足のない、どこから見ても余裕のある患者として、津田を取扱かっているらしかった。
「別に大した用事がお有《あり》になる訳でもないんでしょう」
「ええ一週間ぐらいはここで暮らしてもいいんです。しかし臨時にちょっと事件が起ったので……」
「はあ。――しかしもう直《じき》です。もう少しの辛防《しんぼう》です」
 これよりほかに云いようのなかった医者は、外来患者の方がまだ込《こ》み合《あ》わないためか、そこへ坐《すわ》って二三の雑談をした。中で、彼がまだ助手としてある大きな病院に勤めている頃に起ったという一口話《ひとくちばなし》が、思わず津田を笑わせた。看護婦が薬を間違えたために患者が死んだのだという嫌疑《けん
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