。あれで約三十万円の価格ですと河野さんが云った。門の出口には防材《ぼうざい》の標本が一本寝かしてあった。その先から尖《とが》った剣《けん》のようなものが出ていた。

        二十九

 風呂を注文しておいたら、用意ができたと見えて、向うの部屋で、湯の迸《ほと》ばしる音が盛《さかん》にする。靴を脱いで、スリッパアをつっかけて、戸を開けに掛ると、まだ廊下に出ないうちに給仕がやって来た。田中さんがいっしょにスキ焼を食べにいらっしゃいませんかと云う案内である。スキ焼の名はこの際両人に取って珍らしい響がした。けれども白状すると、毫《ごう》も食う気にはならなかった。スキ焼って家《うち》で拵《こしら》えるのかいと尋ねると、いえ近所の料理屋ですと云う。近所の料理屋はスキ焼よりも一層不思議な言葉である。ホテルの窓から往来を一日眺めていたって、通行人は滅多《めった》に眼に触れないところである。外へ出て広い路を岡の上まで見通すと、左右の家《うち》は数えるほどしか並んでいない。そうしてそれがことごとく西洋館である。しかも三分の一は半建《はんだて》のまま雨露《あめつゆ》に曝《さら》されている。他の三分の
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