る所は足の下も掘り下げて、暗い所にさまざまの仕掛《しかけ》が猛烈に活動していた。工業世界にも、文学者の頭以上に崇高なものがあるなと感心して、すぐその棟《むね》を飛び出したくらいである。詮《せん》ずるに要領はただ凄《すさ》まじい音を聞いて、同じく凄まじい運動を見たのみである。
股野はその間を馳《か》け回《まわ》って、おい誰さんはいないかねと、しきりに技師を探していた。技師は股野に捕《つら》まるほど閑《ひま》でなかったと見えて、とうとう見当らなかった。
十六
今日は化物屋敷を見て来たと云うと、田中君が笑いながら、夏目さん、なぜ化物屋敷というんだか訳を知っていますかと聞いた。余は固《もと》より下級社員合宿所の標本として、化物屋敷の中を一覧したまでで、化物の因縁《いんねん》はまだ詮議《せんぎ》していなかった。けれども化物屋敷はこれだと云われた時には、うんそうかと云って、少しも躊躇《ちゅうちょ》なく足を踏込《ふんご》んだ。なぜそんな恐ろしい名が、この建物に付纏《つけまと》っているのかと、立ちどまって疑って見る暇も何もなかった。いわゆる化物屋敷はそれほど陰気にでき上がってい
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