思議な事に、黒くなって集った支那人はいずれも口も利《き》かずに老人の創《きず》を眺めている。動きもしないから至って静かなものである。なお感じたのは、地面の上に手を後《うしろ》へ突いて、創口《きずぐち》をみんなの前に曝《さら》している老人の顔に、何らの表情もない事であった。痛みも刻まれていない。苦しみも現れていない。と云って、別に平然ともしていない。気がついたのは、ただその眼である。老人は曇《どん》よりと地面の上を見ていた。
馬車に引かれたのだそうですと案内が云った。医者はいないのかな、早く呼んでやったらいいだろうにと間接ながら窘《たし》なめたら、ええ今にどうかするでしょうという答である。この時案内はもう本来の気分を回復していたと見える。鞭《むち》の影は間もなくまた閃《ひら》めいた。埃《ほこり》だらけの御者《ぎょしゃ》は人にも車にも往来にも遠慮なく、滅法無頼《めっぽうぶらい》に馬を追った。帽も着物も黄色な粉《こ》を浴びて、宿の玄関へ下りた時は、ようやく残酷な支那人と縁を切ったような心持がして嬉《うれ》しかった。
四十六
支那の古家《ふるいえ》をそのまま使ってるから
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