変な音
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)眼が覚《さ》めた。
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)毎朝|拭掃除《ふきそうじ》をするときには、
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上
うとうとしたと思ううちに眼が覚《さ》めた。すると、隣の室《へや》で妙な音がする。始めは何の音ともまたどこから来るとも判然《はっきり》した見当《けんとう》がつかなかったが、聞いているうちに、だんだん耳の中へ纏《まと》まった観念ができてきた。何でも山葵《わさび》おろしで大根《だいこ》かなにかをごそごそ擦《す》っているに違ない。自分は確《たしか》にそうだと思った。それにしても今頃何の必要があって、隣りの室で大根おろしを拵《こしら》えているのだか想像がつかない。
いい忘れたがここは病院である。賄《まかない》は遥《はる》か半町も離れた二階下の台所に行かなければ一人もいない。病室では炊事割烹《すいじかっぽう》は無論菓子さえ禁じられている。まして時ならぬ今時分《いまじぶん》何しに大根《だいこ》おろしを拵《こしら》えよう。これはきっと別の音が大根おろしのように自分に聞え
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