つく口尖《くちさき》の辺《あたり》は白い。象牙《ぞうげ》を半透明にした白さである。この嘴が粟の中へ這入《はい》る時は非常に早い。左右に振り蒔《ま》く粟の珠《たま》も非常に軽そうだ。文鳥は身を逆《さか》さまにしないばかりに尖《とが》った嘴を黄色い粒の中に刺し込んでは、膨《ふ》くらんだ首を惜気《おしげ》もなく右左へ振る。籠の底に飛び散る粟の数は幾粒だか分らない。それでも餌壺《えつぼ》だけは寂然《せきぜん》として静かである。重いものである。餌壺の直径は一寸五分ほどだと思う。
自分はそっと書斎へ帰って淋《さび》しくペンを紙の上に走らしていた。縁側《えんがわ》では文鳥がちちと鳴く。折々は千代千代とも鳴く。外では木枯《こがらし》が吹いていた。
夕方には文鳥が水を飲むところを見た。細い足を壺の縁《ふち》へ懸《か》けて、小《ちさ》い嘴に受けた一雫《ひとしずく》を大事そうに、仰向《あおむ》いて呑《の》み下《くだ》している。この分では一杯の水が十日ぐらい続くだろうと思ってまた書斎へ帰った。晩には箱へしまってやった。寝る時|硝子戸《ガラスど》から外を覗《のぞ》いたら、月が出て、霜《しも》が降っていた。文
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